2013年12月14日

猶予期間

雨の中のタナッセとレハト



「……雨か」

先程まで澄み渡っていた天は俄かに暗く陰り、静謐に包まれた森に神の恵みが遍く降り注ぐ。
雨が体に打ち付け、容赦無く熱を奪う。

些か寒い。モルに雨具を運ばせ、足早に城へと戻ろうとした時だった。

……どこからか声がする。それも、楽しそうな。蠱惑めいた声のする方を思わず一瞥する。

雨の中自身の体が濡れることも厭わず、踊っている人影を見た。
お世辞にも上手いとは言えないそれから、どうしてか目を逸らすことが出来ない。
煙たい雨の中、薄ぼけた輪郭が次第に露わになり、息を飲んだ。

「……こんなところで何をしている」

濡れ鼠のような格好で踊っていたのは、レハトその人だった。

「あれ、タナッセこそ何してるの?」
「……そのまま返してやる。今は雨だろう。雨具も着ずに何をしている。
進んで風邪を引くなど、大層良い趣味だな」

雨に濡れた影響で、細い体躯が服越しにくっきりと浮き上がっている。
口を弧にし艶やかな笑みを浮かべる彼は、平素より纏う雰囲気が違うように思えた。

「や、雨って珍しいじゃない。折角お恵みって言われてるのに、楽しまないのは勿体無いなあって」

理由は子供相応の馬鹿げたものだった。
たかがそれだけで濡れ鼠になるなど、大凡理解出来ない。
……ああ、したくもないが。

「お前はそれでも王を目指しているのだろう。そんな様ではこの国の沽券に関わる」

そうだね、と呟くと奴は一つ嚏を零した。

「……それ見ろ、言った通りではないか。大方後先考えず行動したのだろう。
このままお前が王になるなど、考えるだけで怖気が立つ」

反論してこないのでふと一瞥すると、寒いのか頻りに腕を摩っていた。
きっと、私もどうしようもない者に分類されるのだろう。

「……これでも着てさっさと去ね。視界に入るだけで不愉快だ」

あからさまな嘆息をつき、着ていた雨具を投げつけてやる。
手渡すなどこいつにしてやる義理はない。

きょとんと首を傾げた後、何がそれ程嬉しいのか破顔させ足早に去って行った。

「……本当に、どうしようもないな」

呟きは雨に溶けて行った。
posted by ロベリ at 13:15| かもかて小話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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