2013年12月14日

微睡みと切望

大切なものに気付く時は タナッセ視点のお話



本当はとうに気付いていた。あいつはもういないのだと。
二度と、私の眼前にその姿を見せることはないのだと。

「……それでも、探すの? ……俺はおすすめしないけど。
タナッセがそう言うのなら、俺もできる限り協力するよ」
「ああ、感謝する」

諦めるなど、できなかった。

諦観することは容易い。
自責することも、己の運命を呪うことも、嘆くことも。

だがそれが何の意味を持つ。

私にとっては彼女が全てだった。
彼女こそが私の全てであり、生きる意味でもあった。
……理解はしている。

もう、レハトが城から逃げ出して五年も過ぎているのだ。
私はいつまで彼女を探すのだろう。

夜の帳も下りたころ、ふと横たえていた寝台…… 正確には、すぐ脇を一瞥する。
私一人に対しては広すぎるそれ。

月明かりにより仄かに照らされる真白い褥。
その白さがまるで私を責めたてるようだった。

――私ね、ここから見える景色大好き。 

そう言ったのは誰だっただろうか。
次第に睡魔が全身を襲う。

――中庭のベンチに腰を掛けていると、どこからか声がした。

「……誰だ?」

声のする方を振り返る。誰かが立っている、だがその顔は見えない。

――忘れちゃった?

誰かがそう発する。

「……誰だ?」

漠然とした不安が胸に蔓延っていく。


「お前は、誰だ?」

――タナッセ 


「レハッ……!」 


眼前にあるのは見慣れた寝台の天蓋、窓からは朝日が緩やかに射し込んでいる。

「夢、か」

手を額にやれば、汗でじっとりと湿っている。
鳥の鳴き声が、己の呼吸がやたらと耳についた。

「くそ……」

なんだというのだ。

時局を顧みない私が悪いのだろう。
レハトがいなくなったことも、すべて私が悪いのだ。
あいつのことを何一つ分かってやれなかった私が。
気付いてやれなかった私が。

愛していると思っていた。愛されているとも思っていた。
……思っていた、だけだった。

私はあいつを、レハトをどう思っていたのだろう。

レハトは私を、どう思っていたのだろうか。
出来るならば、憎んでいてほしい。
私など愛す価値も、愛する資格もなかったのだから。

このまま続くと思っていた。続けられると思っていた。
どうして私は今もあいつを探しているのだろう。

贖罪、など。都合のいい自己弁護に過ぎない。

別に地位や名声に興味などなかった。
レハトの徴になど、最早微塵の執着もない。

ただ欲したのは、彼女自身だった。

もっと早く、あいつの異変に気付いていれば。
自責してもどうにもならないと分かっていながらも、
そうすることしかできない己がただひたすらに惨めだった。

「……あと一刻程ならば、さして問題もないだろう」

誰に言うでもなくそう呟き、寝台に潜る。
松籟、鳥の音、時折漏れる侍従達の声。
己の呼吸、鼓動、衣擦れ。

その全てから耳を塞ぎたかった。

――このまま。このまま深く眠ってしまいたい。
夢でならまた会えるだろうか。また、お前に。会えるだろうか――



「……ッセ」

――声がする。

「ね…… タ…… ってば」

――この声は。

「もー、タナッセ!」

「……レハト?」

……どういうことだろうか。
こいつは、レハトはいなくなったはずでは。

「……寝惚けてるの?」

……頭が回らない。私は惚けているんだろうか。

そろそろとレハトに手を伸ばす。
さらりとした髪が揺れる。玉のような肌に指が触れる。

「……どうしたの?」

心配そうな顔で手を取られる。
温かさが伝わる。そのまま腕を引き抱きしめる。

「痛いよ」

困ったような、照れたような顔で言われた。

どうか。どうかこれは夢ではないように。耳に喧騒が届いていた。
posted by ロベリ at 13:06| かもかて小話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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