2013年12月14日

再会

タナッセの『会いたかった』という台詞を使った「楽しい場面」を作ってみましょう。
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――私はそこから逃げ出した。

私が城に来てから、ある男性と交流を持ち親しくなった。
最初こそまさに犬猿の仲であり、今のような関係になるなど予想もしていなかった。
顔を合わせれば途端に飛んでんくる野次、罵倒、嘲笑。そんな彼にも、決して少ないとは言えない揶揄が降り注いでいた。

そんな中、私は彼に殺されそうになる。

何故私がこんな目に遭わなければならないのか。
何故徴など授かってしまったのか。
己を呪い、神を呪い、彼を呪った。

しかし、私は死ぬことはなかった。

何の因果か、助けたのは殺そうとしかけた本人だった。
何故助けられたのか。何故助けたのか。日に日に彼を考えることが増え、想いが傾いていく己に当惑した。

そしてある日。
私は一つの結論に至る。

あなたを愛しているのだ、と。

彼の狼狽が、まるで己のことのように…… いや、事実私のことでもあるのだ。このような結論に帰結したこと、それは私にとってもおおよそ想定し得ぬものだったのだから。

だからこそ、手に取るように分かった。

口を閉ざし彼を見る。

言いたいことは言った。
あとは彼の。


『何でも、してやる』


ただ一言だった。

それ以降は俯いていて目を合わせてはくれない。それで十分だった。私にとってその言葉は何よりの意味を持つ。

この城に、そして彼自身に私の存在が刻まれて行く感覚がした。

それからというもの、何をするにも彼が隣にいた。どんな些細なことでも、喜びや楽しみを共有できることが嬉しかった。
時にはぶつかり合ったこともある。だがそれすらも、信じあっているからこそなのだと思えば、自然と笑みを交わすこともできた。

そして私と彼は運命の時を迎える。
アネキウス暦7404年。緑の月。

私は成人した。
彼からの求婚により、選択した性は女性。

幸せだった。

無論周りからの揶揄がなくなったわけではない。冠を持たぬ寵愛者、浅ましくも地位を求めた王子。だがそんなもの、最早どうでもよかった。隣にいつでも彼がいたのだから。

彼も良く私を気にかけてくれた。
あの儀式の後、私の体調は芳しくないことが多かった。やれ体調はどうだ、辛くはないか。
少し鬱陶しい程気にかけてくれる。

そんな彼が大好きだった。

だからこそ、狂ってしまったのかもしれない。狂わせてしまったのかもしれない。

時折見せる自責の文言。
苦渋に満ちた表情。

この命をかけてでも、私を護る。何からも、必ず護るという約束。

彼は約束に忠実だった。

いや、命をかけたからといって、彼が死んだ訳ではない。
だが…… どうだろう。

彼の愛は次第に膨れ上がり抑えきれないものとなった。

少しでも私に危害が及べば、何処からか手を回し相手を洛中させた。
誰かに狙われないようにと、私の行動も制限するようになった。自分の手の中が一番安全なのだと。

そう語った彼の目は、死人と同じではなかっただろうか。
体は生きていようと、以前の彼は死んでしまったように思った。

市街に出掛けようとすれば、必ず彼は着いてきた。一人で行こうとすれば、詰問された。
何処へ行くのだ、何故一人でなくてはならないのか。

一人で居る時間が減った。

私を思いやるはずのそれは、私を縛る戒めとなり、同時に彼をもこの邸に縛り付けた。

そして夜がやってくる。

褥に組み伏せられ、丁寧に愛撫される。無論それは愛のある行為であるし、彼は私を傷つけたいわけではない。

事実寄せては返す快楽の波に揉まれ貪婪に貪っているのは私の方だ。薄い唇で口付けられるのも、細い指でなぞられることも、普段の彼からは想像もつかない獣さも、その全てが好きだった。
その時だけ、彼は昔と同じ顔をしているように思う。

気付けば体を重ねることが増えていた。寝室、露台、中庭。
至る所で彼は情交を求めた。

心は彼のものだというのに、彼しか見ていないというのに、体も引き止めておかないと不安らしかった。

彼を怖いと思った。

私を思いやる彼が恐ろしく、ある日ついに私は逃げ出した。
彼のいない昼下がり、侍従にも何も告げずひっそりと。
もうこれ以上耐えられそうになかったのだ。

這々の体で故郷まで戻った。
そこで平穏な暮らしをしようと。
今にして思えばなんて浅薄な考えだったのだろう。

風の噂で、彼が私を探していると知った。それでも決して出て行こうとは思わない。今ある平穏な幸せを手放したくはなかった。

次第に噂も下火になった頃。

珍しく戸を叩く者が居た。
今でも覚えている。
どうして戸を開けてしまったのか。

『……レハト、会いたかった』

彼だった。

虚ろな目でこちらを優しく見ていた。微笑んでいた。
服はよれ、こざっぱりとした印象は薄れ、窶れたように思う。

『こんなところにいたのか。さあ、帰ろう』

忘れられない。
抱きしめられた感触を。

『ああ、こんなに細くなってしまって。しっかりと食べているのか?服だって擦り切れているではないか。……どうして私の前からいなくなったんだ。私はお前が居なければ…… お前さえ居てくれればそれでいいのに。他には何も望まない。何か不満があったのなら教えてくれ。善処する。だから、帰ろうレハト。私の傍に居て欲しい。レハト。レハト、レハト、レハト。愛してる。お前を、愛してる。何よりも愛してる。帰ろう、レハト。帰ってこい』

怖い。

怖い。

彼の優しい言葉が怖い。
抱きしめられていることが怖い。

思わず突き放していた。
彼が床に尻餅をつく。立ち上がる前に逃げた。
どうして家の中に逃げてしまったのか。

隠れる場所なんてほとんどなかったのに。

『そうか。お前は偽物なんだな』

慌てて二階へ駆け上がり、クローゼットの中に隠れた。
かつかつと響く靴音に恐怖していたことは、今でも昨日のことのように思い出せる。

どうか、気付かないで欲しい。
部屋をうろうろしている音が響く中、ずっと祈っていた。
そのうち靴音は遠ざかり、何も聞こえなくなった。

神は私の味方だったらしい。

胸を撫で下ろし、そっと戸を開ける。
もう大丈夫。

『かくれんぼは終わりだ』

そう思ったのに。

目の前に。
うすらと微笑んでいる彼が。

『どうして逃げるんだ?それとも、本当に偽物なのか?……確かめてみよう。レハト』

床が冷たい。
唇が冷たい。
体が冷たい。

本当に生きているのかというほどに、彼の体は冷たかった。

助けを呼ぼうにも口は唇で塞がれた。冷たく細い指で、自分の太腿が弄られていることには気付いていた。

もう何年も経っていたのに、彼は私の弱いところを正確に覚えていた。それもまた怖かった。

抗おうとも快楽は押し寄せ、口から嬌声がついて出ては止まらない。優しく、優しく、正確に、何度も何度も。

『ああ、やはりその声その表情、レハトではないか。どうだ、気持ち良いか。……良いよな、そのような声を出しているのだから。ああ、そうだ。そろそろ子供は欲しくないか。欲しいだろう?子供を作ろう、レハト。私と、お前の、二人の』

否定する間もなかった。
口に出すことは出来なかった。

『可愛いな。レハト、好きだ、愛してる。何よりも誰よりもお前を愛してる。これから何年も先、運命が二人を別つその瞬間までずっと共にいよう』

腹にじんわりと広がる温かみは、私と彼を縛る強固な鎖なのだ。


それは、今になっても変わらない。


――あるところに領主夫妻がいた。
二人には可愛らしい子供がおり、仲睦まじく幸せに暮らしていた、と史書には記されている。

――――
タナッセ"が"楽しい
posted by ロベリ at 12:58| かもかて小話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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