2012年10月23日

在りし日の面影は。

超絶嫌味なレハトちゃん(女)が登場します。
タナッセ愛情ルート⇒女性分化⇒改めてのプロポーズ時にレハトちゃんの嫌味が炸裂するお話です。
タナッセがひたすら可哀想です。



「あなたのこと、本当は嫌いだった」
「何、を…」

一番聞きたくない言葉だった。信じたくない言葉だった。信じたい、人だった。

「私があなたを好きになるはずないじゃない。可哀想な人。私に裏切られて、悔しい?悲しい?辛い?」

辛い。悲しい。だが、悔しくはなかった。どこか受け入れている自分がいた。

「あはは!みっともない顔!今まで見た中で一番おもしろいわよあなた!
いつも馬鹿面下げて私の傍にいる姿も噴飯ものだったけどね!
あははは!いい気味!大っ嫌いよあなたの事なんて。
ああ、でもあなたの今の表情は好きよ?すごく惨めで大好きよ」 

「今でも私と結婚したい?傍にいたい?ねぇどう?あ・な・た?」
「ふ、ふざ……っ!」

言葉が出なかった。私が愛していた彼女は、こんな、こんな奴だったのかと。
ああそうだとも。私にお前が手に入れられるなど思っていなかった。
それでも。それでも一縷の望みにかけたかった。
お前の心を掴みたかった。

「まあ、あなたが結婚したいなんて言ってもこっちから願い下げだけどね。
あなたなんてこの城で飼ってどうなるっていうの?そう、あなたが最初に私に言ったように。
私は六代目国王レハト。今この時この瞬間より、お前には二度とフィアカントの地は踏ませない。即刻立ち去るがいい」

ここまで言われては、もう歩み寄ることなど出来ないだろう。
そうだとも。私に、あいつを手に入れるなど、最初から。
あいつは、奴はこういう奴だったのだ。そう思わなければやっていけなかった。
扉へ向かう私を余所に、レハトが口を開いた。

「……ああ、でもただ立ち去らせるだけじゃつまんないわね」

声の方へ振り向くと、レハトは薄気味悪い艶やかな微笑を浮かべていた。

「ねえ勝負しない?あなたが勝ったら結婚でもなんでも、言うこと聞いてあげる。
但し、私も同じ条件で。どう?それとも怖い?臆病者のタナッセさん?私と戦うの、怖い?」

「……殺す気か」

レハトは変わらず微笑み続けるだけだった。


足を引き摺る様に試合場へと入る。剣を持つ腕が酷く重かった。
所定の位置に立てば、すぐ眼前にレハトがいる。
六代目国王。美しい容姿と、衛士相手にも引けを取らない剽悍な様。類稀な存在。
どう考えても勝てるわけがない。だが私は勝負を受けた。

どうしても、引きたくなかった。自分が殺されようとも。

「あはは。タナッセが勝負受けるとは思わなかったよ。自分で『殺すつもりか』って聞いてきたのに。
何?もしかして死にたいの?それともそういう趣味?わ、やだ!」

なんとでも言え。

「王よ、所定の位置については頂けないか。……判定役が困っている」

早く終わらせたかった。どんな結末になろうとも。

息をつき、前を見据える。レハトが慣れた様子で口上を告げる。
私も、告げなければ。

「天なる裁定者、大いなるアネキウスよ、かくもご覧あれ。
我が名はタナッセ・ランテ=ヨアマキス。
汝の剣は我が手にあれかし。汝の光は我が背にあれかし。
しからば証せよ、この勝利にて!」

静かに試合は始まった。


勝敗は一瞬で決まった。私は一歩も動いていなかった。
開始と同時にレハトが私の懐に飛び込み、剣を横に薙ぎ払った。ただそれだけだった。

『勝負終了!レハトの勝利!』

判定役が極短く告げる。私の、負けだ。当たり前の結果。
ここで殺されなかったのがせめてもの救いか、それとも地獄か。

「私の、勝ち。呆気ないね。タナッセ弱いなぁ。よくそれで私の勝負受けるなんて言ったね。恥ずかしくないの?」
「……お前の、勝ちだ。さっさと要求を言え。今ここで自害しろというなら、実行してやる」

幾分投げやりに答える。どうせ自分が殺すだのなんだの言うのだろう。

「そんなに死にたいの?やっぱりタナッセってそういう趣味?
……自分で死にたいって言ってる人を死なせるほど、私優しくないよ」

ぞっとするほど綺麗な笑みだった。その笑みに見覚えがあると思った瞬間に気付いた。
ああ、この笑みは。こいつが、私の傍で、常に、していた笑顔だ。


最初に出会った時からずっと嘲笑っていたのだろう。
周到に策を練り、私をまんまと陥れ、こいつはさぞ満足しているだろう。

「そうだなぁ…… タナッセ何がいい?」
「なぜ私に聞く。決めるのはお前だろう。勝者はお前だ」

「だから」

「勝者の私がタナッセに命令してるの。何がいい?ってね」

ふざけるな。
その一言が反射的に出た。

「ふざけてなんかないよ。勝った方の命令を何でも聞く。それが勝負の条件だったはずだけど?違う?」
「……違わない」

そうそれでいい、という顔をレハトがする。
短く逡巡し、鈍る舌で条件を述べようとした時だった。

「ああ、その前に」

なんだ、と聞き返すとレハトは笑った。

「……自分を殺して欲しいとかそんなのなしだからね。つまんないし」

小さく舌打ちした。この状況で生きろだと。とんだ生き恥を晒すだけではないか。

「まさか、殺して欲しいとか思ってた?」

レハトを軽く睨み、条件を吐き捨てるように言った。

「お前と、婚姻を結びたい」

レハトの甲高い笑い声が響いた。


元王息と国王との婚約は、瞬く間に城内へと遍満した。
この短い間に何があったのか、だの、元王息を使ってまで、だの、誤想もよいところだ。

「ほんとさ、タナッセって変だよね。何なに?そこまで私の事愛しちゃってた?ねぇあなた〜?」
「黙れ」

うんざりする。なぜ私はあの場面で婚姻などと言ったのか。

そんなこと、分かっている。
……私がそれを、本当に望んでいたからだろう。
手に入らないと思いつつも、僅かな望みにすら縋り、どうしても手に入れたかったもの。

それがレハトだった。

今レハトは私の傍にいるが、満たされることなどなかった。
レハトの態度は変わらず、私を嘲るだけだ。

死ぬことは選べず、かといって退くことも出来ず。
泥沼に自ら足を踏み入れ、生き地獄に晒される。

レハトは嗤うだろう。なんて馬鹿で可哀想な人なのだと。

玉座から見下ろされ、さんざ虚仮にされるその姿は。
城に来たばかりのレハトを、私に思い出させるのに十分だった。
posted by ロベリ at 21:43| かもかて小話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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